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松田理奈さんのヴァイオリン

textes/notes/音楽

written 2008/11/3


 できればヴァイオリンのための曲を書きたいと思っており、書店でたまたまラヴェルの「ツィガーヌ」の楽譜を見つけたのでこの楽器の研究のために買ってみた。
 しかし家に帰ってみると、どうも「ツィガーヌ」の、vn + pヴァージョンのCDが見当たらない。持ってないのだったか、思い出せない。この際だから新しい演奏でも買おうかなと考え、iTunesストアを探索。
 そこで見つけた未知のヴァイオリニスト、松田理奈さん。その写真が、なんともかわいいのである。早速ネットで調べ、さらに写真を見ると、本当にかわいい。ということで、顔だけにほれぼれとしてしまい、次いでCD店に出かけ、いきなり彼女の最新CD「カルメン幻想曲(初回限定盤)(DVD付)」買ってしまいました(笑)。
 なんと言ってもDVDつき。おまけポストカードつきだし。
 ・・・クラシックのCDでさえ、こんな動機で買っちゃったりするのだから、男どもというのは、いくつになってもしょうもない、アホなスケベですね(絶望)。

 私はもともと日本人演奏家には興味がない。小沢征爾さんとか、高橋悠治さんとかは別だけれど。海外でも若い演奏家には興味がない。私は演奏そのものよりも新規な楽曲を探索して喜んでいるので、世の一般的なクラシック・ファンとはちょっと違う。演奏は大家による安定したものであれば越したことはないという考えだ。1曲についてそう何種類もCDを買い漁れるほどカネもない。
 近頃のクラシックCD界は、せめてもっと売り上げをのばそうと各社とも必死なのか、今ふうにかっこいいジャケット写真を撮ったり、工夫してセールスしている。若い演奏家を何とか売り込もうと頑張っている。頑張って下さい。
 ヴァイオリンやピアノの若い女性演奏者も、ずいぶん容色うるわしい方が増えて来た。ただポップ界と違ってハデハデな化粧や茶髪やセクシーコスチュームとかはさすがにまだないようだが。
 まあ、私のようにスケベ心で買いに走るオヤジもいるのだから、それでクラシック界が絶命せずに済むのだし、ひとまずよしとしよう。

 さて松田理奈さん、演奏はしっかりしたものである。上手い、上手い。弱冠23歳ながら、才能教育に育まれ、いろいろ受賞して来たエリートなのだ。技巧も確実だが、楽譜通りに弾くだけではなくて、歌心にあわせて音楽をちゃんと作っていると思う。真摯だ。
 しかし、凄くいいとも思えない。個性的とは言えない。まだ彼女の音楽は「できあがっていない」という感じがする。
 たとえばこのCDのメインらしいサラサーテの「カルメン幻想曲」。手垢まみれの超有名曲なので、個性的な演奏を期待したいところだったが、なんとなくオーソドックスに聴こえた。それなりに情熱的ではあるし、ラストの激しさはなかなかいい。しかし、全体的な力強さがいまひとつ。骨が太くない。もっとダイナミックに音楽を揺らしてほしいと感じた。少なくとも、私がこれをDTMで演奏するならもっとおおげさに強弱つけてやると思う。・・・しかしピアノのパーヴェル・ギリロフさんがころころとかわいい、澄んだ音色でやっているので、この2人の組み合わせならカルメンもさほど激しくは聴こえないかもしれない。
「ツィガーヌ」の方、楽譜を見ながら聴いたのでこれは感心した。彼女は彼女なりにオリジナルな演奏をやろうとしているのである。ただ、ジプシー調の情熱は松田理奈さんには合ってないんじゃないかという気がする。
 だが、せいぜい大学生くらいのかわいいおねえちゃんに、真の音楽性や、激しさや深さなんて・・・などと賢しげに批判するのはやめておこう。若さの可能性は見極めがたい。姿勢が真摯であれば、まだまだ伸びるはずだ。
 このCDは敢えて非常にオーソドックスな・あるいは「陳腐な」選曲が並んでいる。「序奏とロンド・カプリチオーソ」とか「タイスの瞑想曲」とかラフマニノフの「ヴォカリーズ」とか。まあ、彼女もひととおりやってみようと思ったのだろう。どれもちゃんとソツなく弾いているものの、これではまだ彼女の音楽の特性が見えてこない。まだまだこれから、というところではあるだろう。この技巧を備えた若者が三十歳くらいになった辺りで、どんな音楽を発見するのか。勝負はその頃だと思いたい。
 できればその過程で20世紀モダニスムや現代音楽にもちょこっと挑戦してもらえると嬉しいのだが。

 松田さんみたいな若いヴァイオリニストのために、ラブリーな小品を書いてみるのもいいかな、とふと思う。

 ところで松田理奈さんの1枚目のアルバム「ドルチェ・リナ~モーツァルト:2つのヴァイオリン・ソナタ他~」にはモーツァルトのお気に入りの曲が入っているようだ。どんなふうに弾いているだろう? DVDつきのはまだ手に入るだろうか?(これが最も重要な点)


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