[ 松田理奈さんのヴァイオリン ]へのコメント
textes/notes/音楽
松田さんのヴァイオリン評、拝見いたしました。
私(78、アマチュアの弦=Vn&Vc)ですが、彼女は最高級の演奏家と言えるのではないかと思っています。
私は、まず彼女が「アンダンテ カンタービレ」という、地味な曲をレパートリーにしているという点に興味を持って何気なくCD「カルメン幻想曲」を求め、そのレベルの高さに一驚しました。
「技」と「歌心」の両面をクリアしているという点にかけては、日本での最高級の名手であろうか、と思っております。例えば、CDのグルック「メロデイ」で、冒頭から暫くして聞こえてくるクレッシエンドと情熱的なヴィブラートの見事さは、とても並の演奏家には出来ない「技」です。試みに世界的な名手ムターの「カルメン幻想曲」を聞いてみました。低音の豊かさ、滑らかなトリルの処理、細部のわたる「歌心」の発揮------ 等の諸局面で、明らかに松田さんが優れています。
聞き比べだけで、演奏家の質を云々することは出来ませんが、技巧の優劣はともかく、松田さんが「カンタービレ」「メロデイ」等に歌い込めた情感を聞いていると、他の演奏家にはない美質を感じてしまいます。
彼女の「若さ」を考えあわせると不思議な感じがしますが、思い当たる理由は、彼女が留学先にドイツのニュルンベルクを選んだことにもありそうです。そこには師匠であるゲーデ氏(元ウイーンフイル コンマス)がいるのです。
日本が狭い、と痛感した例があります。
偶然に見たインターネットの匿名サイトですが、ここで音大の弦の人たちと覚しき人たちが、彼女のことを「下手」「才能がない」「格好が悪い」と、口を極めて
悪口していることでした。嫉妬心があることは普通のことですが、匿名だからといって野方図に放置されていいわけではありません。ここを視た人は、芸術家も一皮剥けばこんなものか、と失望したことでしょう。嫉妬心が研鑽へのバネとなればいいのですが。
演奏家として大成するためには、こうした試練をもクリアしなくてはならないのですね。
彼女は、先般のウイーンフイル ニューイヤーコンサートをテレビで視て、とりわけオーケストラの弦連中のボーイングに注目していたそうです。流石にプロだと思いましたね。 権兵衛
(09/1/17 21:12)
Res
権兵衛さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
私はヴァイオリン演奏について何か語れるほどの何ものも持っておりませんので、直感的な感想を書いただけでした。
もちろん、松田さんの演奏はうまいんだと思います。
この記事を書いた後で松田理奈さんの1枚目のCD「ドルチェ・リナ」を買ってみたのですが、そちらは残念ながら、あまりよくありませんでした。というのは、モーツァルトのホ短調ソナタの、テンポが遅いのはいいとしても、あまりにも「強さ」に欠けておとなしく、すっきりしない演奏と感じました。この曲はムターもめっぽう遅く弾いていましたが妙に神秘的にやっていて、それはそれで面白いものでしたが・・・。
デビュー当時のこのモーツァルトに比べれば、2枚目の「カルメン」の方は飛躍的によくなっていると思います。
松田さんの演奏はそれでも五嶋龍さんみたいなベタで大仰な身振りと比べると、やはり非常におとなしいものに感じられます。その「おとなしさ」の中に豊かな情緒が込められている。そこはとてもいい。たぶんそれは彼女の人格なのでしょう。
が、曲によってはもっと激しく、力強い部分が出て来てほしいなと思うのです。
それがないと、レパートリーの幅が出てこない。
やわらかな情緒で充実する一方で、音楽のとがった局面にも肉迫してほしい。
と、いうようなことを、才能ある奏者を応援する意味で書かせていただきました。
ずぶの素人のいち感想ですので、あまり深い意味や予見性はありませんので、ご了承ください。
(09/1/17 21:44)
Res
(補遺)素人の松田さん評の続きです。
>>この技巧を備えた若者が三十歳くらいになった辺りで、どんな音楽を発見するのか。勝負はその頃だと思いたい。
御意!
彼女のブログを拝見すると、若さゆえの青春を謳歌する書き込みのオンパレードです。しかし、これも今だからこそ許されるのでしょう。
全く余計な心配事ながら、今後にどう備えるべきか。
一冊の本があります。
「ロシアから西欧へ」(ミルステイン、春秋社)。
ホロヴィッツと組んで演奏旅行するほどの大ヴァイオリニスト/ミルステインが、旅行の折に出会った芸術家や文化事象の印象を綴ったもの。
この二人は、ヨーロッパでクライスラーを聞くためだけの理由でロシアへ帰国しなかったというだけあって、出会った人物は、例えば、ラフマニノフ、ストラヴィンスキー、バランシン等、超一流。
彼女は今ドイツに居ますから、この本の余韻から多くを学べるのではないか、とフト考えた次第。(しかし、人のことよりも、まず自分の心配をすべきですね。私もこの本を読まなくてはなりません)。
一つ、お訊ね。
>>どんなふうに弾いているだろう? DVDつきのはまだ手に入るだろうか?(これが最も重要な点)
具体的には、どういう弾き方に興味をお持ちなのでしょうか。私も参考にさせて頂きたいと思います。
権兵衛
(09/1/17 22:37)
Res
> 一つ、お訊ね。
> >>どんなふうに弾いているだろう? DVDつきのはまだ手に入るだろうか?(これが最も重要な点)
> 具体的には、どういう弾き方に興味をお持ちなのでしょうか。私も参考にさせて頂きたいと思います。
いいえ、根本的に何も知りませんので、ヴァイオリンという構造の楽器がどのように音楽になるのか、基本的なメカニズムを知りたかっただけです。
たとえば重音奏や音程の跳躍したフレーズをどんなふうに弾くのか、とか。右手と左手がどんなふうに動くのか、とか。
だから別に松田さんの映像でなくてもいいのですが。
ただ、彼女のやたら真剣だったり・やたら楽しそうだったり・悲しげな旋律ではやたら苦しそうだったりする表情も、見ていて素朴におもしろいですね。
(09/1/18 19:09)
Res
>>ヴァイオリンという構造の楽器がどのように音楽になるのか、基本的なメカニズムを知りたかった
------ これはまことに難しい設問です。
というのは、右手や左手の動きを穴のあくほど凝視していても、そこから流れ出る音楽とどう関連しているのか、なかなか分からないからです。
何となく分かるのは、優美な構え方/ボーイングというものがあって(剣術と似ている)、名人のそれは動きそのものが音楽であるような印象を残す、ということだけのようです。
しかし、無様な動きでも、素晴しい音楽が生まれることもああるので、見た目だけでの判断はあまりアテにはならぬもの、と私は思っています。
もう少しアテになりそうな方法は、演奏されている曲を、自分で実際に練習し、その上で演奏姿を視認することでしょうか。
しかし、素人は到底「カルメン幻想曲」など、練習することすら不可能です(泣)。では、「アンダンテ カンタービレ」のような ゆっくりした調子のものならどうか。
大体のところは分かりますが、名人は思いもよらないような運指/運弓をしたりするので、これまた追跡不能のことが多くなります。
大問題は、見ていて自分と全く同じような運指/運弓を名人がしている場合です。
同じ動きなのに、そこから出てくる音楽が天国と地獄ほどに違うのはどういうことか!
こういう疑問を持つこと、そのものが恥と畏れを知らない素人の浅はかさですね。
しかし、素人は、この恥に耐えることのなかに上達の啓示を掴むこと以外に為すことはないのです。
私はハイフェッツの演奏姿を捉えたビデオを見たことがあります。しかし、上記のような事情で、見ていて参考になることは全くありません。
このビデオでは、ハイフェッツが本格練習を始める前の準備運動から紹介してくれています。最初はゆっくり、そしてだんだんと早く-------- しかし、素人に出来そうなのは、最初の「ゆっくり」だけ。そこから先へ進むには、何年かの艱難辛苦が待っております。
松田さんのCDには「陳腐」な小品が並んでいます。それを名演に変えるのが名人の技。素人が「陳腐」な曲を弾くと(名曲であっても)「陳腐」な曲にしかならないところが悲しいですね。
長文になりましたが、結局は「愚痴」だけになってしまいました。 権兵衛
(09/1/18 20:18)
Res
自分はヴァイオリンを演奏できないし、恐らく一生触れることもないと思います。
ただ、作曲するための知識としてヴァイオリン演奏というものの「イメージ」を持ちたかっただけなのです。
無伴奏ヴァイオリンの曲、ピアノ伴奏付ヴァイオリン曲を途中まで書いて、現在は違うことやってますので頓挫していますが・・・。
権兵衛さんは素人とおっしゃいますが、きっとヴァイオリン演奏に真剣に取り組んで、ずいぶん苦労されて来たのでしょうね。私も作曲で苦労してきて、自己否定の心境には最近もよく陥りますが。
しかし、社会的に流通する価値を持ちうる「プロの音楽」には届かなくても、「素人の音楽」が「音楽」でないわけではない。
広い視野に立てば、プロ/アマに関わらず、ともかく真剣な音楽が存在するということは、それ自体うつくしいことだと思えますね。
(09/1/18 21:48)
Res
nt様
>>作曲するための知識としてヴァイオリン演奏というものの「イメージ」を持ちたかった
私はヴァイオリンとチェロという楽器に自己流で親しんで(苦しめられて)50年くらいになりますが、改めて「弦楽器演奏」というものについて聞かれると、これは何とも難しいものです。強いて格好良く言えば、難しいから、奥が深いから、ということでしょうか。最初の出発点は名人も下手も同じですが、名人は問題意識が高く、自分で練習方法を案出出来、そして良い教師の善導を得て順調に上達します。下手を宿命付けられた人は、ただテキストをさらうだけ。しかし、何となくやっているうちに多少は進歩するものです。そして少しずつ面白くなるところに伏兵が待っています。
弦楽器というのは、まことに良く出来た発明品で、下手にも上手にも、ふさわしい遊び道具が用意されていまっす。例えば、弦楽四重奏、アマチュアオーケストラ。オケにもいろいろあって、楽器を買ったばかりの人でも入団出来たり、メンデルスゾーンのコンチェルトが弾けなくては、セカンドにも入れないところもあります。(クライスラーがウイーンフイルノセカンドの試験に落ちたのは別次元の話)。
「伏兵」というのは、この面白さにかまけていると、進歩が止まってしまうということでっす。
弦楽四重奏やオーケストラ作品ですが、難しいけれども夢中になれるのは、やはり「アメリカ」「狩」「未完成」「運命」「新世界」「悲愴」といった(手垢付き?作品)。聴衆がいないのなら何回やっても飽きない魅力があります。一方、難物はブラームス、マーラー、ショスタコヴィッチなど。ブラームスなんか自分で何をやっているのか分からないうちに終り、客から「流石ブラームは晦渋でドロドロしているところが良い」などと?
さて、こうした経験から、下手なアマチュアなりに「作曲」面で何が言えるのか? 例えば、
◇ 弦楽器の音域は分かっているが、モーツアルトは中音域ぐらいまでで多くの傑作を残した。やたら高音域を要求するブラームス、ドヴォルザーク、ショスタコヴィッチなどは、演奏者が消耗するばかりか、勤労意欲を阻害し、音楽の喜びを奪う(聴衆も喜ばない筈)。
◇ ハ長調、イ短調は難しく、暗い。弦に一番いいのはニ長調、ト長調、イ長調。シャープ/フラットは三つ止まり。それ以上になると、特にチェロ以下は死の苦しみ。(プロは別格)。
◇ 高い音域への跳躍は転落死を招く。また、高い音域から降りてくるのが難しい。
◇ ボーイングは簡明なるが良し。(名手に任せると危険)。
◇ 変拍子は「必然性」がない限り、誰も歓迎しない。
◇ 小品、緩徐楽章、ハーモニー、ピアニッシモを活かす演奏こそ最高。腕の見せ所(つまり、難しい)。
◇ アマチュアは「dim.」が苦手。黙っていると「mf」に固執。録音で反省すること少なし。
(*)私にはヴァイオリンについての拙著があります。御希望なら贈呈申し上げます。
pdd03511@nifty.ne.jp
辻栄二/権兵衛
http://d.hatena.ne.jp/e-tsuji/
(09/1/19 16:13)
Res
<補遺>作曲と弦楽器
(*)私は楽典音痴。しかし、以下は現場での実体験/見聞を基にしたものです。(順不同)。必ずしも関連のない話をも含む。
◇ 清潔なハーモニーに満ちた曲は、弦の音程矯正に資する。
◇ タンゴヴァイオリン奏法は、ヴァイオリンの機能を100%発揮させる。クラシック ヴァイオリンの機能は、70%くらい。タンゴヴァイオリン奏者はクラシックも弾けるが、クラシックヴァイオリン奏者はタンゴが弾きたがらないことが多い?(四角四面でしか弾けない)。しかし、ボストンポップスのような両刀使いの成功例もある。
◇ パガニーニ奏法は人を驚嘆させるが、タンゴは人を泣かせる(酔わせる)ことが出来る。
◇ タンゴヴァイオリンにアコーデオンは不似合い。バンドネオンでなくてはならぬ。
◇ ほか、演歌ヴァイオリン ウエスタン調ヴァイオリン奏法があり、独自の技法と効果を発揮する。簡単には真似出来ない。
◇ マントヴァーニ オーケストラのサウンドは素晴しい。「編曲」の勝利。アマチュアでも模倣可能。実際の演奏を聞いたことがあるが、弦が少ないのに、むしろ驚かされた。(マイクと編曲での勝負らしい)。ただし、奏者は名手揃い。
◇ オペラ作りについては、作曲家 青島広志の本が有用(「作曲家の発想術」「音楽家って不思議」)。名文家である。
◇ フォルテの曲は子供でも弾ける。ピアニッシモこそが勝負どころ。(弦の得意技)。
◇ 弦に上達するほど「アレグロやヴィバーチェ」偏向者が増える。第2楽章は忌避される傾向にあり、演奏水準を下げる。音も汚くなる。
◇ ベートーヴェンは「第9」で器楽を捨てて声楽を選んだ。しかし、実際のオケ団員は声楽入りの曲を何となく忌避している風情がある。弦はお株を奪われた気分になるのか。
だが、オペラ伴奏は別の話。オケはステージの歌を聞かずに指揮棒だけで演奏することも可能だかららしい。
◇ ノンヴィブラートは好まれない。ヴィブラートは弦の命。(下手なアマチュア奏者はヴィブラートを止めることが出来ないことがある)。
◇ 演奏開始時、コンバスが先に音を出すとうまくいくことがある。(あるいは、コンバスは音が出難い?)。
◇ ファーストの音のオクターブ下を、セカンドがユニゾンで支えるとファーストは心強い。以下、セカンドとヴィオラ〜等についても同じ。また、ファーストとヴィオラ/チェロの組み合わせも好感度が高い。
◇ ヴァイオリンとフルートは相性が悪いことが多い。(合うのはオーボエ、クラリネット)。
◇ チェロはファゴットが頼り。ヴィオラはホルン。
◇ 管同士の相性とは何だろうか。例えば、グレンミラーサウンドとは?
◇ シンコペの最高の成功例は、「未完成」第2楽章。
◇ 全曲が「歌」に満ちたオペラの成功例は「アイーダ」。(ではないか?)。
◇ 弦合奏曲でエルガーの小品は貴重。
(09/1/20 21:14)
Res
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