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東京、Margarita、そして2つのコンサート企画

textes/notes/雑記

written 2017/8/13


 8月5日土曜日から6日日曜日にかけて、6月に続いてまたも屋敷信香さんのお世話になり、東京旅行に出かけてきた。
 8月5日夜、町屋のムーブホールでピアノデュオ「Margarita マルガリータ」のコンサートである。

 デュオMargaritaは6月の仮装演奏会でお会いしたピアニスト屋敷華さんと、ロドリゲスありささんのお二人。後者のピアニストありささんは、スパニッシュ系アメリカ人のお父様と日本人のお母様とのハーフで、見た目はいかにも外国人ふうに見えるけれども、育ちがずっと日本なので、文化的に完全に日本人である。英語は子どもの頃から接してきたわけでもなく、一般の日本人と同様に学校で習って習熟したそうだ。そして英国籍の白人男性と結婚されるそうなので、まったくもって国際的なキャラクターだ。ありささんもソロピアニストとして活躍されているようなのだが、ソロでどんな曲を弾いているのか、聴いたことはない。

 実に素晴らしいコンサートを満喫させていただいた。一方、動画係としてお呼び頂いたにも関わらず、私はQ2nでの撮影に半ば失敗してしまい、というのは、2台とも何故か途中で電源が切れてしまって後半の2部は、iPhoneによる手ぶれ満載:音質最悪の動画しか残っていない。大変申し訳なくて穴に閉じこもりたい感じだ。

 2人の連弾コンサートでいつもオープニングに弾くという「剣の舞」からノリノリで怒濤のように後続のプログラムが展開され、MCもさすが若者というセンスの良いユーモアが溢れていた。
 ドヴォルザークのスラヴ舞曲10番、ピアソラ、カプースチン、それと華さんのソロでショパン「幻想即興曲」、ファリャ「火祭りの踊り」などが演奏された。
 ピアソラとカプースチンは、お二人の実に息の合ったリズム感、確実なテクニックに裏打ちされたシャープで明るい情熱がよく現れていて、このデュオにふさわしく、とても素晴らしかった。
 個人的にはストラヴィンスキーの「5つのやさしい小品」が演奏されたことが、ストラヴィンスキー好きの私にはたまらない嬉しさであったが、やはり無調っぽくなると聴衆の受けは今ひとつ冷めているように肌で感じられ、哀しかった。まあ、ストラヴィンスキーの音楽自体がそのような「冷め」の要素が強いのだが。
「トルコ行進曲」やグリーグの「山の魔王の宮殿」はオリジナルのアレンジで演奏され、超有名な旋律がコラージュ的に挿入されたのはお客さんにも良く受けたと思う。
 ラストはローゼンブラットの「2つの主題によるコンチェルティーノ」。私は実はローゼンブラットさんの音楽はあまり評価しないのだが、この曲は後半「カリンカ」の旋律が明らかになってきてからが俄然おもしろく、「2人羽織」状態の連弾もあって視覚的にも楽しい。早弾きの見事さもあり、2人に巧みに乗せられて聴衆の手拍子が入って実に盛り上がった。

 ユーモアに満ちたMCや小道具を使った演出もそうだが、Margaritaのコンサートは演奏じたいも、「音楽の愉悦」にあふれているもので、「まじめに大人しく拝聴するクラシック」とは別の次元に属するような、お客さんをHappyにする音楽なのだ。
 6月のソロコンサートでの華さんは、観客側の顔半面がメイクで隠れていたこともあったが、ここまで「楽しそうな表情」をしていなかったと思う。今回のデュオでは、親友との連弾じたいが実際とても楽しいのだろう、終始笑顔で、ファジル・サイのような躍動感が全身から放出されていた。2人とも本当に音楽をやるのが好きで、無垢の喜悦のオーラは聴衆にも確実に届いて全体を巻き込み、この「場所」にいることそのものが音楽の愉悦の至福に満たされるかのようだった。
 このデュオはお二人の美貌もあって都内で固定ファンもいるらしく、銀座「アンク」など都内や東京近郊で活躍しており、結成4年を迎えるらしい。欲を言えば、さらに人気を高めるなら少なくともYouTubeに動画がいくつかあるべきだし、ウェブサイトもまだ持っていないらしいのが残念だ。今回前半しか撮れていないとはいえ、動画は数曲編集できそうだし、webページづくりにも必要であれば協力できそうに思っているし、北海道からこれからもささやかながら応援していきたい。ピアノデュオMatgaritaはもっとメジャーになっていい、素敵にヴィヴィッドなエンターテイメント性あふれる芸術だと思う。

 再び「打ち上げ」にもお呼ばれし、卓越した受付嬢ユーリーさんとも少しお話しできたのが嬉しかった。
 あと、急に私の地元、北海道苫小牧市でMargaritaのコンサートをやれないかという話が出て、帰ってからもその企画が頭から離れない。まだ会場確保ができていないが、来年やってみたいと思う。

 実はそのほかに、私の「Concertino」が著名な米国ピアニストVicki Rayさんにより、来年4月3日にロスで初演されるという話があって、その日程では仕事の都合で渡米することは不可能だが、逆に、再来年2019年あたりに北海道札幌市に招聘し、ピアノ+エレクトロニクスの現代音楽コンサートを開催しようという、おおがかりなプロジェクトが無謀にも始動している。資金がないので、クラウドファンディングの利用でどの程度お金を集められるか・できれば彼女の大学(CalArts)や国際交流基金などから助成が下りるかどうかと、相当に不安な面があるし、そもそもコンサート開催経験がなく日頃ものぐさで行動力のない私がうまく立ち回って集客できるのかという、限りなくやばい話である。
 私はそもそもDTMで音楽をつくっていて、まったくもって孤独な引きこもりだったのだが、2011年頃から「現代音楽」の方向にシフトし、つまり「楽譜」を演奏家に渡して音楽を「生成」してもらうというクラシック特有のことが始まった。つまり孤独な自己完結から、次第に「他者とのコミュニケーション/協働作業」へと推移してきたのだ。それで、演奏家さんたちとネット以外でも徐々につながるようになってきた。
 私は日常生活の「生」と、ネット上での「生」とを確固として区分してきたのだが、こうした事情で「ネット面」に封じ込められていた「私の音楽」が、ナマの生活面にも流入してきた。そのさらなる進化形態が「コンサート開催」という、今回の2つのプランに当たることになろう。
 死ぬ前に、「2つの生」がひとつに合流するわけで、それは「物語」として、私の人生を分節化することになるだろう。
 ともあれ、まずは来年のMargarita苫小牧公演を、なんとか実現したい。


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