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胃潰瘍だった。

textes/notes/雑記

written 2013/4/6


以前胸痛について書いた3月3日付の記事と内容が一部重複しますが、ここにまとめて経緯を書いておきます。誰か胸痛で心臓を検査して、「何でもないからストレスのせい」とはぐらかされた人の参考になるかと。



 1月末ごろから「胸痛」があり、自分は血液検査で高脂血症疑いと言われ血液がドロドロで、タバコも吸っていることから、はじめ「狭心症」の可能性を考えた。
 2月に総合病院に行ったが、そこは「総合内科」がないのでとりあえず循環器科を受診。各種の心電図検査をしたが、どうもはっきりと痛みの原因を特定できなかったので、さらに1泊で検査入院し、「心臓カテーテル検査」まで受けることになった(3月下旬)。
 カテーテルは痛かったり体内に不気味な感触があったりと、非常に不快感の残る検査で、もう二度と受けたくない検査だったが、そこまでしても、結局「狭心症」ではなかった(ちなみにこの検査入院のおかげで出会った看護師さんへのラブソングを書くことができた)。
 すると医者は「検査の結果、何でもないです。ストレスからくる痛みかもしれません(つまり気のせい、自律神経症状)。もう通院しなくてもいいです」などと、そこで打ち切ってしまった。「胸痛」の場合、肺や食道・胃の可能性もあるので、他科の受診を勧め、手配してくれればいいのに、「総合病院」という名の建物の中にあっても、どうやら高度に専門化してしまった各「科」は互いにつながりとか無いらしく、とにかく医者は自分の受け持ち=循環器科でシロと出たのでもう関係なし、という態度だった。わからないものは全部「ストレスのせい」にしてしまえばいいや、という最近の内科医たちの安易さまで見てとれた。
 しかし、その頃はもう痛みがかなり激しく、いったん痛み出すと2時間から4時間くらいは続き、仕事も手につかなくなったり、夜中に痛くて起きてしまったりと、かなり生活に支障が出ていたのである。ここまで明確に痛いのは絶対に器質的な病気だろうと私は確信していたので、自分から循環器科の医者に「じゃあ胃カメラも試してみたいと思うのですが」と言ったのだった。医者は「それなら消化器科ですね」とわかりきったことをニコニコと言っただけで、消化器科の受診予約を入れてくれもしなかった。

 そこでカテーテル検査の退院から2日後、自分から消化器科を「初診」で受診した。いちおう朝飯を抜いて行ったが、さすがに「その場で胃カメラ」は無理だったので、さらに数日後、人生で初めての「胃カメラ」を経験することになった。
 胃カメラは苦しいよ、という噂をさんざん聞いていたのでちょっとイヤだったが、実際は、カテーテル検査なんかよりも何十倍もラクだと思った。で、「胃潰瘍」が見つかったのである。ピロリ菌も目視されたそうだ。これがたぶん潰瘍の原因である。
 痛いのはふだん「おなかが痛い!」という時の部位よりも上であり、自分の感覚では「腹」ではなく「胸」なので、患部が結局「胃」だったというのは意外だった。
 とりあえず胃酸を抑制する薬を処方された。これがよく効いて、あの激しい痛みは消えてしまった。タバコを吸いすぎたときには、かすかな「チクリ」という感覚があるが、痛みと呼ぶまでもない。これで生活・仕事上の支障はやっと除去された。

 ネットで自分でもいろいろ調べていたのだが、「胸痛」というのは本当に厄介で、各種内臓が集まっている場所だから、さまざまな病気が考えられる。心臓、肺/気管支、食道のほか、肋骨間の神経痛というのもあるらしい。内臓の部位の特定は自分では無理なので、よくわからないから、胸痛の場合はできれば「総合内科」にかかるのが正解であるようだ。
 総合内科がない場合は自分で科を選ばなければならないが、胸痛の場合で一番緊急性のある病気の可能性が高いのは、狭心症から心筋梗塞、動脈硬化のケースだから、私が最初循環器科に行ったのは、おそらく正解である。しかし、カテーテル検査をやる前あたりで、いちど「キャベジン」を飲んだところ強い痛みを感じ、また、さいきん頻りと「げっぷ」が出て、胃酸のこみ上げることに気づきはじめ、もしかしたら「逆流性食道炎」つまり消化器系じゃないかと思ってはいたのだ。胃カメラのほうがずっと簡単な検査なので、カテーテルの前にいちど試してみればよかった。が、まあそれは、なりゆきでそうなったのだから仕方がない。 
 また、「気胸」や「肺がん」のほうも当初は考えたが、心臓検査の過程でさんざんレントゲンもCTもやっていたし、呼吸器系の疾患だと多いらしい「せき」の症状がなかったから、呼吸器科ではなく消化器科を受けたのだ。

 さて胃カメラをやったとき、潰瘍組織の一部を摘出し、悪性かどうかを検査するということだった。いわゆる「生検」だ。悪性の胃潰瘍というのは結局ガンらしいので、予想もしていなかった「胃ガン」の線が出てきた。検査結果がでるまでに2週間もかかるという。
 初めは「ガン」ではないだろうと思っていたが、時間が経つうちに、「遺伝的にガンになりやすいのは確かだから、ガンかもしれない」「ガンだったらいいな」という気持ちに移り変わっていった。

 7年前、2006年に姉と父が相次いでガンで死んだ際の記憶がまざまざと蘇ってくる。
 父の方は最初のガンから10年経って再発し、そろそろもたなそうだったが、それでもジリジリと死が近いかな、というくらいだった。一方姉は、当時たしか39歳で、相変わらず重度の統合失調症で薬漬けだったが、いったんガンが見つかったときは既に遅く、凄まじいスピードで全身にガンが広がり、脳にまで達するかというほどになり、満身創痍の状態で凄まじい苦悶のうちに死んでしまった。父はその少し後で死んだのだ。
 統合失調症で幻視・幻聴にとらわれ、精神的に退行していた姉は、本人にガンが告知されることもなかった。「姉の死」は私には当時衝撃的な事件で、私じしんの「うつ状態」によるメンタルクリニックへの通院が始まり、抗うつ剤を飲むようになったのはその頃からだ。
 私は「うつ」とは言っても最近はさほど希死念慮もなく、ふつうに日常を送っているのだが、今回「ガンかもしれない」という状態になったとき、自分がガンになって死ぬことで、やっと自分の物語が完結するという気がし始めたのだ。ふたたび、死への憧憬が湧いてきた。
 娘も大きくなったし(中学生)、音楽活動もそれなりの成果はあったし、それなりに人生を楽しんだ部分もあったし、ここらで死んでしまうことに心残りはなかった。いや、もう面倒だから、死んでしまったほうが良いと思った。

 けれどもカミサマは残酷なのである。まだ死にたくない、未来のある人たちを日々大量に殺戮するくせに、死にたがっている人間のほうはなかなか殺してくれない。

 ガンではなかった。ただの良性の胃潰瘍である。入院の必要もなく、単に数ヶ月の薬物療法で解決してしまう。
 胃酸を弱める薬で強烈な胸痛がおさまってくれたのはありがたいが、まだまだ当面、生きなければならないらしい。
 現在の服薬を続けて2ヶ月後に、潰瘍がおさまったところでピロリ菌の除菌を行うそうだ。しかし、医者の忠告にかかわらずタバコはがんがん吸っているし、辛い食べ物は大好きだし、なかなか潰瘍は治らないかもしれない。
 医者は「慢性の収縮性(萎縮性)の胃炎なので、いったん治っても、また潰瘍を繰り返すかもしれませんね」と予言していた。ということで、いつか最終的には胃ガンになるのかもしれない。が、その日はすぐということではないようだ。
 物語は完結しなかった。望まれた結末はやってこなかった。面倒きわまりないが、まだ生きなければならないようだ。退屈だから、ひまつぶしにまた作曲でもしよう。


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