さよなら(?)、初音ミク
textes/notes/雑記
written 2012/8/19
昨日完成、公開した「共時態 Synchronie」は同日中に動画もでっちあげてYouTubeとニコニコにアップした。
反響は特に良くも悪くもなく、まあ、いつもと同じだ。
ふだんボカロ曲を聴かない人からは「これはボーカロイドの歌がない方がいいんじゃ・・・」とか、ボカロ曲ばっかり聴いている人からは「変わってる・・・おもしろい」とかいう声が上がる。
私はボカロオタクでは全然ないし、声優の歌声は好きではない。
J-POPは歌詞なんかまるで聴かずに音色としてのボーカルを楽しみ、自作でも歌詞のメッセージ性を重視していない私があえてボーカロイドを使うのは、耳に残りやすく口ずさみたくなるようなメロディーは、やはり意味のある歌詞を乗せた方が、より効果的と思われるからだ。「アアアー」とか無意味な歌詞で作ってみたこともあるが、リスナーの記憶へのこびりつきと言う点では、弱い。
歌詞なんかどうでもいいと私は思っており、作るのは妙に哲学等を反映した、やや難解だったり辛口だったりする歌詞だ。これはリスナーをむしろケムに巻くための韜晦戦術みたいなものだろう。
私がボーカロイドの中で「初音ミク」をとりあえず買ったのは、有名だったし、当時すでに「リン」や「ルカ」も出ていたが、「ミク」の方が比較的扱いやすそうに見えたからだった。
けれども初音ミクのデフォルトの声は気に入らなかった。私の好みから言えば、あまりにも軽くておもちゃっぽい。
そこで、VOCALOID2 Singer Editorの「ジェンダーファクター」を+35くらいに設定し、喉を太く=男性化する。さらに、DAW側のエフェクト・プラグインでこれを変質させている。Logicのイコライザーで中・低音域をカットし、「EVOC 20 Filterbank」で高周波部分にフォーカス。Cut Offも上げ、ディストーション系エフェクタやAutoFilterなどもかけあわせる。さらに、Vocaloid Editor 2側では、「Open」(口の開け方)をほぼ常に半分以下に下げている。
また、この声の「細さ」は力強さや奥行きがないので、2声から3声の重唱スタイルを使うことが多い。
少なくとも私の最近の「超越」「場所」「共時態」はこのような初音ミク設定を使用している。
こうして得られた初音ミクの声は、一般ユーザーには「これがミクの声なの?」と言われるくらい、デフォルトと違う。純粋なミクマニアなら怒られるか、相手にして貰えないボカロ曲である。かなりいじって自分好みに近づけた声だが、その副作用として、歌詞が異常に聴き取りにくくなってしまう。
ボーカロイドはしょせんロボットの声であり、人間の歌唱の豊かさには絶対かなうわけがない、と私は割り切っているので、電子音源のひとつとしてこれを用い、音響空間の中での「スター」としては特別視しない方針をとった。だからボーカルの音量は控えめで、ボロがでないようバックの楽器音やノイズの中に埋め込んでいる。このためますます歌詞が聞こえない。
そうやって試行錯誤しながら初音ミクを使って来、数えてみるとこれまで15曲も作成してきたようだ。ついでに並べておこう。
・2009年「かけら、羽のように」「マーヤ―」「強迫欲動」
・2010年「父の名」「エンドン」「シナプス」「反復」「メランコリー」「音楽のめざめ」
・2011年「CPU」「Progress Eve」「THING(現在非公開)」
・2012年「超越」「場所」「共時態」
今作「共時態 Synchronie」は当然この系列の延長線上にあるものだが、「ミクさんの声が魅力的じゃない」と人に言われてしまった。人間のボーカルと比較して言っているのかもしれないが、試行錯誤の末、かろうじてなんとか自分好みの音源に近い物として使っていたつもりだったので、ショックではあった。
そこでなんとなく、ボカロを使った歌ものを作り続ける気をいきなり失ってしまった。とはいえ、J-POPのように明快で記憶に残り、口ずさめるメロディーというものは捨てがたい。
今度は別のボーカロイドを試してみたいかな、と思う。
私はMacでCrossOverというソフトを経由してVocaloid2を使用してきたのだが、CrossOverではVocaloid3も動作検証がされている。Vocaloid2は音楽作成のためにはかなり貧しい機能しかないので、Vocaloid3は試してみたい、と思っていた。
ボーカルライブラリは、最初、ミクより自然かつ歌謡的な声で高音がよく伸びる「IA」を狙っていたが、今日「結月ゆかり」というのを知り、ハスキーでしっかりした歌声に魅力を感じた。ロックな曲調にもよく合っているし、ニコ動で公開されている優れた音源を聴くとなかなかにリアルで、初音ミクとは雲泥の差だ(単に作者の調声がうまいのかもしれないけれど)。これなら、従来の初音ミクの我流人工化バージョンとはちがう使い方ができそうである。
ということで、「結月ゆかり」を思い切って購入することにした。高音がほしいときにはたまに使うかもしれないが、メインボーカルとしての初音ミクとはしばしお別れだ。
「私の音楽」という文脈の中で、ボーカルを使ってまだ何ができるのか、新しい可能性が開ければうれしい。
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