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2011年のまとめ

textes/notes/雑記

written 2011/12/20


 まだちょっと早いんだけど、作曲活動の面では既に私の2011年は、意識の中では終わっているので、恒例により「今年のまとめ」を書いておく。
 昨年(2010)はボーカロイドを使ってみた実験的連作「断絶詩集」に前後しつつ、エレクトロニカ方面に重心が動き、「PRISM」諸作をとおして「サウンドデザイン」の技術をみずから向上させることができた。ような気がする。
 今年はそこから、いまいちど「クラシック/現代音楽」的なものに帰って行く方向性をもった。

1/22完成 「CPU」

 初音ミクを用いた疑似POP曲で、ノイズや無調的傾向、変拍子など、異種の方向性を内包しつつ、外面的にPOPの衣装をまとった実験作だった。凝ったアニメーション動画も作ったが、この曲は人によって好き嫌いが分かれるものだったようだ。

 このあと、3月11日にあの東日本大震災が起き、作曲どころではなくなった。毎日ネットやテレビ、新聞等を通じて、特に福島原発の事故状況を追うのに精一杯だった。

4/2完成 「Progress Eve」

Progress Eve by nt.signes

 この曲は震災によって完成がぐっと遅れてしまったのである。震災の上に、歯肉炎が痛かったのもあるし。
 この頃、急にプログレッシヴ・ハウスに魅了され、Dinkaなどを聴きまくっていた。初音ミクは登場するが脇役程度。
 アレンジや最終ミックスの状態が、ちょっとゴミゴミしている難点はあるが、全体的に、私にしては輝かしい雰囲気を持った作品となった。

4/24 完成 「時の生成」 (音源公開:5/14)

Genesis of Time by nt.signes

 はじめピアノを主役にした、現代音楽風のエレクトロニカという企画で書き始めたが、途中でメロディー楽器がほしくなってヴァイオリンを登場させた。で、ヴァイオリン音源についての不満をぶつぶつつぶやいていたところ、なんとエクアドル在住のヴァイオリニスト、前田ただしさんが、この曲のヴァイオリンパートを録音してくださることになった。
 さらに驚くべき事には、キトで5/26に行われた前田さんの無伴奏ヴァイオリン・リサイタルにて、この曲が演奏されるという、夢のような出来事が実現した。
 このことがきっかけになり、「クラシック演奏家に興味を持っていただけるように、もっと楽譜をそろえておきたい」と思うようになり、今年は「楽譜作成」がメインテーマになっていくのである。

5/7 完成 「THING」(iTunes Store、Amazonでの音源配信: 6/8開始)

 震災チャリティ企画に参加させてもらって急いで作った、調性的なボカロ曲。作成した音源は、iTunes StoreやAmazonにて、期間限定で有料配信された。有料配信は初めてのことだったが、何人かは購入してくださったようで、ありがたい。
 買って下さった方に申し訳ないので、この曲は現在公開していない。

6-7月 「ピアノのための23の前奏曲」

6/14 完成 「Pearl Gray」
6/19 完成 「Crocus in the Wind」
7/3 完成 「Gear」
7/17 完成 「Before Light, After Light」
7/23 完成 「Falling Rocks」
7/28 完成 「Discontinuous Lines」

23 Preludes for Piano by nt.signes

 さてクラシック系の、楽譜つき楽曲作成の手始めに、やはりピアノ独奏曲から作り始めることにした。
 ごく短い曲を「前奏曲」として次々に作った。が、23曲で完結予定のところ、現在6曲しか出来ていない。これが完結するまで、2−3年かかるかもしれない。
 短い曲を並べるということで、各曲ごとに差異性が必要な気がして、いきおい、「キャラクターピース」的な作り方になってしまった。すると、各曲がどうも、底が浅くなってしまうような気がする。このへんをどうするのか、今後の課題である。

10/29 完成 「弦楽四重奏曲」

String Quartet by nt.signes

 ある室内楽コンサートに行き、ハイドンの四重奏を聴いたことをきっかけに、ついに自分でも弦楽四重奏を書くことを決意。
 ピッチカート以外に特殊奏法を使わず、いかに「現代的」なことをやることができるか?
 しかし、どうもモダニズムふうに留まってしまっているようで、書きながら焦燥した。
 参考のため、沢山の海外現役作曲家の弦楽四重奏を聴きあさり、「現代的であるとはどういうことか?」という根本的な問いを再認識する経験となった。相当苦労したわりに、曲そのものはあまり成功しているとは言えないが、自分の勉強という点では、それなりに収穫はあったと思う。
 エリオット・カーター、ジョナサン・ハーヴェイ、イヴァン・フェデーレなどに、弦楽四重奏を仲立ちとして接近することができた。

11/20 完成 「リメインズ ヴァイオリンとピアノのための」

Remains for Violin and Piano by nt.signes

 弦楽四重奏で自らに禁じた「ピアノ」を解禁し、ヴァイオリンとの組み合わせで、むしろ自家薬籠中の手法だけで一気に書き上げた作品。音源ファイル生成(ミックス、マスタリング)の時点でダイナミクスが弱まってしまったのが残念。

12/10 完成 「Tango/Love for the People」

Tango/Love for the People by nt.signes

 完全な調性音楽は久々で、しかも、これまで自分で書くとは思ってもみなかった「タンゴ」作品。
 和声的短音階で、3和音のストレートな響きを用い、「一般的」(=ステレオタイプ?)な情緒をふつうに醸し出すことを敢えて試みた。中間部で無調フレーズやノイズが炸裂するが、ここではフリーっぽいジャズにも聞こえ、それなりに楽しめるものになったのではないか?
 実はこういう、ストレートな哀愁は結構好きで、ロシアの、たとえばチェブラーシカのバックで流れているような音楽も、子どもの頃から大好きなのだ。いつもは和声的な実験というか、冒険的なことをやって楽しんでいるけれども、たまにはこういうのもいいかもしれない。

 POPな「CPU」「Progress Eve」で始まり、伝統的な西洋楽器によるクラシック/現代音楽を経て、世俗的な「Tango」で終わる。今年はそういう1年だった。
 来年は「23前奏曲」「Phenomenon」の続きや、室内楽系の現代音楽(とりあえず無伴奏ヴァイオリン曲)、そして再度「エレクトロニカと現代音楽の融合」、「ボーカロイドを使った現代音楽」などを試みたいと予定している。
 
 4、5年前に比べて私の音楽創作は、サウンド面・アレンジ面でけっこう向上したのではないかと思っている。ようやく耳も肥えてきた。
 音楽の内容についてみても、(大波小波があるが)2006年あたりから2010年の初めの方(「断絶詩集」前半の、とりわけ「強迫欲動」「父の名」)にかけての時期は、やはり私は精神的に病的で偏ったところがあり、サウンドも混沌としがちだった。しかし2010年の後半以降は少しずつ健康になったのか、響きもすっきりし、明確になってきている。このまま純粋に、音楽として高度な完成に向かっていけばいいのだが。(もちろん、非才な一介のアマチュアなので限界はあるとしても。)

 一方で私は、やはりインターネットでのコミュニケーションに全く不向きであるらしく、相変わらずSNS等でのトラブルを経験し続けた。しかしリアルでの友人もおらず(というか、面倒なつきあいを避けて自室にこもりがち)、とりあえずネットでもさまよっているしかない、しょうもない中年である。全然不惑どころではないが、色々な場面でそろそろ冷静さを保てるようになりたいと思う、42歳。
 もっとたくさんの人に音楽を聴いてもらい、「試みのおもしろさ」でも認めてほしい。などという若い願望はいいかげん鎮めて、わずかな方々にでも聴いていただけることを幸せに思いながら、背伸びせず・高望みせずに、マイペースで音楽を作りながら、最後にむなしくひっそりと死んで行きたい。


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