弦楽四重奏を追って
textes/notes/雑記
written 2011/8/28
よくクラシック音楽の中でも、弦楽四重奏曲を聴くのを愛好する人は「通」と言われる。本当かどうかは知らないが、私個人の感覚では、とりわけ19世紀以降のオーケストラ曲については、あまり好きとは言えず、音色の豊穣さを縦横に駆使した「面的」な管弦楽曲よりも、「線的」な明快さをもつ室内楽曲の方がずっと好きだ。これはたぶん、J. S. バッハを若い頃愛好したために、常に「線的」なものを求めるという傾向が染みついたのだろう。
とはいえ、中学生の頃に出会った、ジュリア―ド四重奏団(だったかな?)によるラヴェルの弦楽四重奏曲は、冒頭部分のビブラートが「気持ち悪い」と感じ、好きになれなかった。以降、モーツァルトや、ドヴォルザーク「アメリカ」、スメタナ「わが生涯より」といったメジャーなものを除いて、あまり好んで聴かなかった。大学生の頃、ベルクやバルトークの作品に出会ったくらいで。
響きとしては地味なジャンルで、ピアノが入る華やかさはない。
しかし最近になってエリオット・カーターの5つの弦楽四重奏曲(Naxos 2枚 String Quartets 1 & 5, String Quartets Nos. 2 3 & 4
)に惚れ込んでしまい、改めてこのジャンルで自分でも作曲したくなった。
DTMで弦楽四重奏をやるのは、ちょっと難しいものがある。シンセサイザーにしろ、サンプリング音にしろ、表情と変化に満ちた弦楽器を真似することは不可能である。しかも私の持っているソフト音源は、独奏弦楽器専用音源ではなく、ハーモニクス音やスル・ポンティチェロばかりか、ノン・ビブラート奏法の音すらまともに収録されていない。せいぜいピチカートくらいしか無いのだ。おまけにポルタメントやグリッサンドも、うまく表現することができない。
だからあえて弦楽四重奏を作る気になれなかったわけだが、エリオット・カーターの作品はあまり特殊奏法を使わずに優れて現代的な断絶感を表出しており、今回自分でも作ってみようという気持ちにつながった。ちなみにクセナキスの弦楽四重奏向けの作品群(Xenakis: Complete String Quartets
)も大変素晴らしいもので必聴だが、特殊奏法やノン・ビブラートを使えなければこの音楽は真似できないと思った。
さて実際に作った私の弦楽四重奏曲(第1番?)第1楽章は、新古典主義的な作風で、エリオット・カーターの世界とは全く異なり、どちらかというとバルトークあたりに近い。確か聴いたことはないが、ヒンデミットやプロコフィエフの四重奏にも似ているだろう。
個々に2和音を奏することも可能な4つの独立した楽器によるアンサンブルは、私の中の「対位法」的構成への欲望を解放した。鍵盤楽器では十分には尽くしきれない対位法書法が、ここでは容易に実現する。そして互いに音色が類似した(同質の)楽器同士の集団であることから、聴取の焦点はおのずと各音の音高配置や線の絡まり具合へと惹き付けられる。これは、音の強弱の点で最大限の自由を獲得したパイプオルガンのようなものだ。弦楽四重奏というフォーマットは、19世紀、ブラームス辺りまでの中央ヨーロッパ近代音楽の理念=音高操作と和声・対位法的な構築の極限を目指しながら情緒性や物語性を表出する、という目標に全くふさわしいものだったと思われる。
しかし、20世紀前半のモダニズム止まりにも見える自作の弦楽四重奏第1楽章、後続の楽章はもうちょっと現代的なテイストも加味したいと思っている。大枠はあくまでも「擬古典主義的」四楽章だが。
さて、最近現代ものを中心に弦楽四重奏曲をよく漁っているので、幾つか紹介しておく。
・Erhard Grosskopf エルハルト・グロスコップの作品集(NEOS String Quartet 1-3
)。
これはいかにも、20世紀末頃の前衛的な響きだが、複雑ではないので聴きやすく、美しさも感じる。意外にもお気に入りのディスクとなった。この人、この1枚しかCD出てないようなので、よくわからない。
・Jonathan Harvey ジョナサン・ハーヴェイの作品集(Aeon Complete String Quartets & Trio (Hybr) (Dig)
)。
イギリスの作曲家で、「前衛的すぎない」内容で、なかなか面白い。私の音楽的感性にはしっくりくる。知的でスマート、複雑さもあっていかす!
・Cristóbal Halffter クリストバル・アルフテルの作品集(Anemos String Quartets Vol. 1
)。
スペインの作曲家のようだが、最初の曲は特殊奏法は少なく、モダニズム的な、古風なもの。しかし後の方の曲はもっとカオスっぽい。うーん、作曲年がよくわからないが、最初のはかなり初期のものなのか?
・György Kurtág ジェルジ・クルターグの弦楽四重奏全集(Neos Complete Works for String Quartet
)
クルターグの音楽は私には今のところちょっとぴんと来ないところがあるというか、あまり惹かれるものを感じない。この作品集はどこかオーソドックスで、全般におとなしい雰囲気。
・Peter Ruzicka ペーター・ルジツカの作品集(Neos Complete Works for String Quartet
)
ドイツの作曲家で、前衛的な響きの中から、ときどき調性的な楽節が出現する。かといってラウタヴァーラのように「感動」を演出している風でもなく、シュニトケのような「ポストモダン」の作風(要するにごった煮ワールド)と見るべきだろうか。
・Ivan Fedele イヴァン・フェデーレの作品集(Strdivarius String Quartets
)
イタリアの作曲家で、コンテンポラリーだが聴きやすい。情緒性を感じるが、ベリオのようなねっとり感はなく、あっさりしている。
あと、最近買ったものではないが、リゲティの作品(Ars Musici String Quartets 1 & 2
Ardittiの演奏よりこっちのArtemisの方が良い)はやはり面白い。
ついでに書くと、ラサール四重奏団によるベートーヴェン後期の弦楽四重奏曲集がよかった。別の四重奏団の演奏で聴いたことはあったが、彼らの演奏に見られる「鋭さ」は魅力的。ベートーヴェンを再認識させられた。3枚組ながら安いのでおすすめ。(Beethoven: the Late String Quartets
)
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