Logic Studio 9を購入した
textes/notes/雑記
written 2010/2/6
DAW(作曲ソフト)はずっとAppleのLogic Express 8を使っていたのだが、waveファイルのタイミング等を操作できるらしい新機能が気になり、そろそろ「9」にバージョンアップしようかな、と思った。
で、ちょっと内容について問い合わせようとオンラインのAppleストアにメールを送ってみたが、「詳しく状況を聞きたいので、お電話をお願いします」との回答。
電話してみると担当の方は若そうな女性で、話しているうちに、勢いのあまりその場で「9」を注文することに。しかも、なんとそこで大胆にも「Logic Studio 9」の方へアップグレードすることにしてしまった。・・・その女性は別に強く勧めたわけではないのに、なぜか自分が舞い上がってしまったのだ。
このアップグレード、3万円もするのである。Express 8からExpress 9なら1万円で済んだはずなのに・・・。
自分は「勢い」で恐ろしいことをしかねない人間だとわかった。
モノは昨夜到着。ワクワクしながら開封するとDVDが9枚もついている。Expressに比べ、ソフトシンセやエフェクトや、その他私が使いそうもないソフトも沢山入ったパッケージなのである。音色とエフェクトの選択肢がぐっと増えるのは、創作上、たいへん嬉しいことではあるが・・・。
さて、インストール開始したら、なんと「残り時間19時間」という表示が!
実際はそんなにかからんだろう、と思いながら指示に従って次々とDVDを入れ替えていく。
23時になってまだインストールは半ばだったが、眠くなってしまい、放置して寝てしまった。
朝起きると、やっぱり「DVDを入れ替えてください」のメッセージが出て止まっている。残り時間の表示は「6時間」くらい。で、早速インストールを再開し、午前9時近くにようやく終了。
実質、インストールに要した時間は6時間ほどだったと思う。うーむ、OSインストールよりも時間かかるソフトって・・・。
その後起動してみたが、細かいところで動作が変だったところは修正されており、それが嬉しかった。インターフェースはさほど変わっていないような。・・・しかし、まだあまりいじっていないので詳しくはわからない。
自作曲「断絶詩集」の1曲目「強迫欲動」が2曲目と比べてあまりにもクラシッククラシックしているので、早速新しいLogicの試運転ということで、Remix作業を開始した。
新しいシンセ音やエフェクト、前から持っていたKORGのM1、Wavestationを駆使して、ちょいとエレクトリカルでアンダーグラウンドな雰囲気にremixしようとしているところだ。Boom Boom SatellitesやBill Laswellなんかの影響を感じさせるような。
が、やはり、旧作をいじるのって、自分にはあまり面白くない。敬愛するストラヴィンスキーなんかは何度も自作を改訂作業しており、そのたびに同じ曲がかなり雰囲気の違う曲に生まれ変わってしまったりしているが、私にはこういう作業は根本的に向いていないらしい。このremix、完成するのかな?・・・途中でやめてお蔵入りになる可能性大だ。
ついでにremix作業をしながら考えたことを記しておく。
クラシック、少なくとも20世紀前半のモダニズムまでの西洋音楽では、特に「音高」を主軸とした「音価」が重視される。コンポーザーが書き記すもの=エクリチュール=楽譜は、この「音価」を記しているだけのものであって、実際の演奏については、作曲家は「それなりに美しく、それなりに解釈して、やってよ」くらいにしか言えない。私の現バージョンのクラシカルな「強迫欲動」も、この意味で極めてクラシック的なのだ。
ところが、この「音高」をメインとした「音価」の価値体系は、20世紀後半以後の「現代音楽」では崩れてゆく。五線紙上に散りばめられた半音単位での「音高の体系」は、それ自体疑問に付され、もっと別の新しい何かが要求されるようになる。
実はこの展開は、現在のポピュラーミュージック・シーンでも同じ状況なのだ。
メロディの歌謡性、コード進行による情緒表出などは、それだけでは現代的ではないということになり、音価はもっとシンプルに、例えば同音連打の連続のような単調さをむしろ愛好しながら、インダストリアルな・またはノイジーなエフェクト処理で、断面としてのサウンドの新しさが追求される時代になった。
いわば音高秩序の体系性が否定され、もっとミニマムなかたちで音楽的な差異が求められる。クラシックの「現代音楽」もポピュラー界のトレンドも、実は同じ焦燥にとらわれているのである。
そういった動向に私は反抗的だったり無頓着だったりして、あえてバッハ流の対位法のような「音価の構造性」に向かっていた。倉木麻衣のような、ちょっと古くさいとも言える素朴な歌謡性に惹かれるのも、実はこのアナクロニズムに原因があるに違いない。一方では、ビル・ラズウェルのようなきわめて「現代的」な退廃にも惹かれるのだが・・・。
音楽的感性の歴史的流れは、この先どの方向に向かうかは予測できないから、アナクロニズムが必ずしも悪いとは言えないはずだ。が、私は「remix」しながら、もう一度自分の言語を確かめてみる・・・。
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