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神尾真由子さんのヴァイオリン

textes/notes/音楽

written 2009/5/21


 以前、松田理奈さんのヴァイオリンについて書いたことがあったが、自分の好みとしては、この方の音楽性は繊細だがおとなしすぎるような気もしたのだった。
 女子ソフトボール日本代表をなぜ「なでしこジャパン」などと言うのかと疑問に思っていたが、そういえば、松田さんの音楽には、なんとなくこの「なでしこ」という言葉が似合う。たぶんご本人はそんなことはなくて、おとなしめであってもあくまで現代女性なのだろうと想像するが、やや力感に欠ける一方、微細な音色の探求に卓越したその音楽性が、なんとなく古風な日本という感じなのだ。
 尺八の世界にも「一音成仏」などという言葉があるらしく、演歌ではひと節の「コブシ」にタマシイが込められる。武満さんも書いていたが、日本人の音楽センスは古来このように一音のミクロな探求にすべてを賭けるあまり、音楽的な幅がなかなか広がっていかないという危険性を持っている。そういう意味で、松田理奈さんの音楽のあり方は、今のところとても日本的であり、それが日本人のクラシック愛好家の中で人気を博している理由の一つだろう。

 さて、一方で、神尾真由子さんという若い新進の女性ヴァイオリニストがいる。
 2008年に出たこの方のデビューCD「PRIMO」には、なんと、シマノフスキの「神話」全3曲やストラヴィンスキーの「イタリア組曲」(「プルチネルラ」のvn + p版)が入っている。日本の新人には通常考えられない、凄い選曲! というか、モロに私好みの選曲!
 というわけで、昨年末くらいからほしいなあ、と思ったが、どうせなら、DVDつきの初回限定盤を・・・。と、いくら探しても、ネットではもはや初回限定盤は手に入らないようだった。・・・うーん。浜崎あゆみや倖田來未の「DVDつき限定盤」は1年経っても市場に出回っているというのに、クラシックはそもそも生産量が非常に少ないから、「初回限定」ってすぐになくなっちゃうのか・・・。
 とあきらめていたら、なんと、隣の市のデパートで偶然発見し、感涙してしまいました。
 ・・・まあ、DVDはたいした内容ではなかったですが、レアアイテムということで将来プレミアつくかな?

 神尾真由子さんのこのCD、なかなかいい。というか、選曲が私好みなので、松田理奈さんのCDよりもずっと多く聴き返している。
 ワックスマンの「カルメン」というのも珍しいのかよくわからないが、まあ、冷静に考えて楽曲としてはやっぱりサラサーテの編曲の方が上だろう。しかし、シマノフスキ「神話」の演奏は見事にこの曲の魅力を引き出しており、満足すべきものと感じた。ストラヴィンスキーの演奏も、しっかりとストラヴィンスキーしており、間違ってない。ショーソンの「詩曲」も入っており、この曲は今まで好きではなかったが、今回初めてピアノ伴奏版に触れ、フォーレを彷彿とさせる滋味豊かな作品と気づいた。
 総じて松田さんに欠けていたメリハリとか力感が明確に感じられる演奏で、キレがあって、あっさり・さっぱりした感触。私はどちらかというと神尾さんのタイプが好きかもしれない。また、この音楽は欧米人向きのタイプかもしれないと思った。微細な音色の鍛錬という部分では松田理奈さんの演奏の方がはるかに優れているが、全く異なるタイプの音楽なので、比較してもしょうがないという気もする。

 そもそも、このアルバム「PRIMO」のジャケ写からして、まるで「おねーさま」という風格。茶髪とカールはこの写真のときだけだったのかもしれないが、なんだかこのジャケットからは、ちょっと怖いかもしれないおねーさまというイメージが伝わってくる。
 そして彼女は大阪出身。・・・ということで、誠に勝手ながら、私の中で神尾真由子さんのイメージは、「なでしこの末裔」タイプの松田理奈さんに対し、「じゃりン子チエ」のイメージである(幼稚・貧困、かつ失礼なイメージでごめんなさい・・・)。
 まあ、万人が「かわいい」と認めるとびきりの美人ではないだろうが、クラシック演奏家なんだからほんとはそんなことはどうでもいい。
 それより、この顎の輪郭は、なにやら強い・勝ち気な意志の力を感じさせる。情熱もみなぎっていそうな顔貌だ。
 Amazonのレビューを見てみると、「このアルバムには神尾さんの本当の力があまり出ていない」みたいなコメントもあって、そうか、コンサートではもっと激しいのかもしれないなと思った。

 さて、この神尾真由子さん、6月3日に2枚目のアルバム「パガニーニ:24のカプリース(初回生産限定盤)(DVD付) 」が出る。ということで、一応予約しておきました。今度はパガニーニなので、まあ、楽曲としてはさほど興味がないんだけど・・・。
 それより、彼女のコンサートが7月1日に北海道・札幌市で開催されるのである。
 3−4年前にブーレーズが札幌に来てなんとシマノフスキをやったというのに聴き逃し、去年もメシアン関係のコンサートに行きそびれた私。結局私は出不精な上にビンボー症なのだが、今回の神尾さんのコンサートはどうしようかと、未だに迷っている。
 それなら12月にやはり札幌に来るらしい倉木麻衣ライヴの方が、ショーとして単純に楽しそうではあるが・・・。

 んー、迷ってます。神尾さんの新アルバム入手してから決めるかな?


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